2012年4月23日月曜日

リリーフとレリーフ(1)

George Eliot の Middlemarch 、書き出しの一文が難しい。
Miss Brooke had that kind of beauty which seems to be thrown into relief by poor dress. 
まず、Miss Brooke had that kind of beauty 「ブルック嬢はあの種の美しさを持っていた」と始まる、のっけの「あの」って何か? 出だしの一文で、前は空白なのに・・・という問題。

これがわかる人は、なかなかの上級者。「ここは先行詞です、あとで関係代名詞 which が出てきて「あの」って何か、きちんと説明されますよ」ていう合図みたいなもんなんだよね。実際、直後に which seems to be thrown into relief by poor dress と関係詞節が注文どおり現れてくる。

ジーニアス英和辞典では、この that の詳しい用法が紹介されていて、「後方照応的」とちょっと難しく書かれているが、この辞書一流の文法説明はまさしく見もので、

[ that A which ... ] (・・・する(ところの))あのA、(・・・する)そんなA 《◆この場合の that は指示性が弱いので通例日本語に訳出されないことが多い》
とあって、めちゃくちゃわかりやすい。さすがで、こういうところがこの辞書のすばらしさだと思う。 ついでに言えば、紙の辞書だと目に付きやすいが、電子辞書ばかり使っている人は、この説明をなかなか見つけられないと思う。だから私は、一流になりたければ紙の辞書を使うことをお勧めする。

さて、いちばん問題なのは、この関係詞節の中なのだ。seem to V は「Vするように思える」で、to不定詞の中身が受け身になっているのは、わかるのだが、この受け身、be thrown into relief て何?だろう。

be thrown 「投げられる」と直訳で考えてみる。into てあるから、「~に投げ込まれる」と考えたとき、その投げ込まれる先が relief なのである。ふつうリリーフ・ピッチャーのリリーフだ、と覚える人が多いだろう。「安堵」とか「救済」とかいう訳語が浮かんでくると思う。

しかし、受け身の行為者 by poor dress は「貧しい格好によって」あるいは「みすぼらしい身なりによって」であるから、そんなものによって「安堵」や「救済」の中に「投げ込まれる」といくら考えても、どうにもしっくりこないのである。そこで、強引な解釈が加わり始め、訳がどんどん変貌していくことになる。

「貧しい格好によって、かえってほっとさせられるように思える類の美しさ」
「みすぼらしい身なりによって、救いがもたらされるようにも思える種類の美しさ」

かくして誤訳がひとつ、またひとつと生まれる。皮肉にも「救い」がない。
じゃあ、答えは何なのかといえば、リリーフではなく、レリーフの中にあるのだ。

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