2012年4月24日火曜日

リリーフとレリーフ(2)

以前、チェンバリストの武久源造さんの話を伺う機会があって、なるほどそうだ、と思ったことがあるのだが、
「日本語では録音機を「レコーダー」、縦笛を「リコーダー」て言うけれども、もともと同じ英語の recorder からきているんだよね」
とおっしゃっていた。今月、小学校で学年があがった娘が、音楽でリコーダーの授業が始まるとのことで、学校指定の楽器を購入したのだが、ふとそんな話を思い出した。

英語には曖昧母音なる発音があり、これは、アと聞こえてもイと聞こえてもウと聞こえてもエと聞こえてもオと聞こえてもよいと中学のときに恩師から習った。まさしくその通りで、どう発音してるのか聞き取りづらい弱い母音なので、曖昧母音という絶妙な名がつけられている。

そういった意味で、recorder は「レコーダー」と聞こえても「リコーダー」と聞こえてもおかしくないのだ。

同じことが、relief にもいえている。「リリーフ」と聞き取った野球関係者がいたのだろうし、「レリーフ」と聞き取った美術関係者がいたのだろう。

レリーフとは、浮き彫り細工のことを言う。Wikipedia - レリーフに詳しいので少し引用すると、
古くは、古代ギリシャの神殿、ヒンドゥー教の遺跡など石で作られた物に見ることが出来る。 製法はノミなどで石を削ることにより像を浮き上がらせる。 陶磁器においては、模様を彫り出す浮彫りと、逆に模様を貼り付ける貼花の二方法がある。後者の代表がウェッジウッドジャスパーウェアである。
要するに、立体的に描き、際立たせる芸術手法がレリーフなのである。そうなってくると、be thrown into relief は、何に「投げ込まれて」いるのか、もう明らかだろう。「リリーフ」に投げ込まれても「救い」はなかったが、「レリーフ」に投げ込まれるのなら「浮き立ってくる」何かがみえてくる。

実際、大学に入り『ジーニアス英和辞典』を卒業した後使う、研究社の『リーダーズ英和辞典』 を引くと、二つめの relief の意味として、
1 浮彫り細工
2 際立つこと、(他との対照による)強調
などが紹介されており、加えてその慣用表現、
throw into relief 目立たせる 
とはっきりと答えが提示されている。大学生だったら、ここに行き当たり、見つけた!これだ!!と小躍りするところである。かくして、Middlemarch の書き出しが、いかに名文であるかということが、味わい深くなってくるのである。
Miss Brooke had that kind of beauty which seems to be thrown into relief by poor dress.
ブルック嬢には、みすぼらしい身なりによって、かえって浮き立つようにも思える類の美しさがあった。 
あたかも、平板な石の上に浮き彫りされた女神のように、その美しさはひと際目立ってみえたわけである。素晴らしい!!

 画像は上記 Wikipedia - レリーフより。三美神像

2012年4月23日月曜日

リリーフとレリーフ(1)

George Eliot の Middlemarch 、書き出しの一文が難しい。
Miss Brooke had that kind of beauty which seems to be thrown into relief by poor dress. 
まず、Miss Brooke had that kind of beauty 「ブルック嬢はあの種の美しさを持っていた」と始まる、のっけの「あの」って何か? 出だしの一文で、前は空白なのに・・・という問題。

これがわかる人は、なかなかの上級者。「ここは先行詞です、あとで関係代名詞 which が出てきて「あの」って何か、きちんと説明されますよ」ていう合図みたいなもんなんだよね。実際、直後に which seems to be thrown into relief by poor dress と関係詞節が注文どおり現れてくる。

ジーニアス英和辞典では、この that の詳しい用法が紹介されていて、「後方照応的」とちょっと難しく書かれているが、この辞書一流の文法説明はまさしく見もので、

[ that A which ... ] (・・・する(ところの))あのA、(・・・する)そんなA 《◆この場合の that は指示性が弱いので通例日本語に訳出されないことが多い》
とあって、めちゃくちゃわかりやすい。さすがで、こういうところがこの辞書のすばらしさだと思う。 ついでに言えば、紙の辞書だと目に付きやすいが、電子辞書ばかり使っている人は、この説明をなかなか見つけられないと思う。だから私は、一流になりたければ紙の辞書を使うことをお勧めする。

さて、いちばん問題なのは、この関係詞節の中なのだ。seem to V は「Vするように思える」で、to不定詞の中身が受け身になっているのは、わかるのだが、この受け身、be thrown into relief て何?だろう。

be thrown 「投げられる」と直訳で考えてみる。into てあるから、「~に投げ込まれる」と考えたとき、その投げ込まれる先が relief なのである。ふつうリリーフ・ピッチャーのリリーフだ、と覚える人が多いだろう。「安堵」とか「救済」とかいう訳語が浮かんでくると思う。

しかし、受け身の行為者 by poor dress は「貧しい格好によって」あるいは「みすぼらしい身なりによって」であるから、そんなものによって「安堵」や「救済」の中に「投げ込まれる」といくら考えても、どうにもしっくりこないのである。そこで、強引な解釈が加わり始め、訳がどんどん変貌していくことになる。

「貧しい格好によって、かえってほっとさせられるように思える類の美しさ」
「みすぼらしい身なりによって、救いがもたらされるようにも思える種類の美しさ」

かくして誤訳がひとつ、またひとつと生まれる。皮肉にも「救い」がない。
じゃあ、答えは何なのかといえば、リリーフではなく、レリーフの中にあるのだ。

2012年4月22日日曜日

読書!

私は小学校の時、塾に行ったことがないのです。
学校の勉強は、ちゃんとがんばっていました。

いちばん印象に残っているのが、小学校4年生のとき。
なにしろ担任の先生が出す宿題が、「読書ノート」のみ、というもので、しかも毎日だったのです。

図書館に行っては本を借りて、何ページか読み、読書感想文を1ページ書くということを毎日続けました。ついでに小4からサッカー部に入って、毎日走りまくっていたので、疲れ果てた夜は、机の上に開いた本に、頭を埋めて居眠りばかりしていたかと思い出されます。

しかし、このときの「本を読む」という教育を授かったことが、後の進路に大きな影響を与えたことは確かです。進学校の愛光に入学してからも、毎日のように文庫本を読み漁っていました。サッカー部もやってたわけですが・・・

愛光に入っておもしろかったのは、寮生活でしたから、いろんなやつの読書趣味が透けてみえたことですが、一緒に東大に進学したやつらは、たいてい何かしらのこだわり(例えばヘッセを全部読んでいるだとか、ドストエフスキーを読破してるだとか)を持っていました。私は、高1のときに読破したトルストイの『戦争と平和』がいちばん思い出深いのですが、それは友人から勧められたドストエフスキーの『罪と罰』を読んだ後、いまひとつ自分には入らず、同じロシア文学だったらこっちのほうが性に合うかなあ、とか思って手にしたのがきっかけで、実際はこのとき既にシェイクスピアやサマセット・モームなど英文学を比較的よく読んでました。


そんなわけで、個別指導をし始めてからも、「何か本読んでる?」と生徒に聞くことがあるのですが、やはり宿題に追われてか、巷に言われる活字離れのせいか、あまり読んでないのが実情のようで、少し寂しく感じているわけです。

だけど、よくよく聞いてみると、マンガはよく読んでいるみたいだ・・・

それだったら、マンガもいいけど、おもしろい本だっていくらでもあるのだから、読むように促してあげるのが、若者の教育を受け持つ大人の役割といったものではないでしょうか。私がペーパーバックで英語を、とこだわる理由は、「読書」にあります。

私の考えでは、数学の問題を解くのだって、ミステリー小説を読み解く推理みたいなもので、ひとつの読解力にかわりないのです。


小学校では、いまでも読書をしよう!という教育がなされているようで、娘が「音読カード」なるものをもって、読んだ作品を書き込んでいく姿を見、ひとりの親として「いい学びをしているなあ」と思いほっとしています。

やっぱ、本を読まないとね!


2012年4月21日土曜日

ペーパーバック

土曜の授業開講に向けて、新たにペーパーバックを読み進めています。

J.R.R.Tolkien の The Lord of the Rings

翻訳は評論社文庫『新版 指輪物語』J.R.R.トールキン 瀬田貞二・田中明子訳

映画化された『ロード・オブ・ザ・リング』の原作


これ、おもしろい!

ナルニアを書いたルイスは、このトールキンの作品の朗読をきいたあとでインスピレーションを受けて書いたらしいのですが、なるほど、トールキンの方がおもしろいかもしれない。

なんかね、この歳になってもワクワクする、ちゅうか、ゾクゾクくるもんがある、ちゅうか、いいんですわ。


ほんとはね、George Eliot の Middlemarch が手持ちのペーパーバックの中ではいちばん惹かれるんだよ。

つてもね、これ、いま東大の先生だったら、研究ついでに学生と一緒に読むだろ。

塾の先生やけん、違うやろ


たぶん、この「ロード・オブ・ザ・リング」のペーパーバック読破会。私による文法解説付き。読解力は身につくし、もちろん受験英語にも大いに役立つ!つったノリの授業にする。

学年は小中高だろうがなんだろうが、かまわんわ。

月謝は6,000円で考えている。どや!

オレはね、授業やるんやったら、こだわり持ってやるよ。それは絶対曲げん

2012年4月17日火曜日

ふたたび英文法のはなし

前回に引き続き、ペーパーバックを読み進めていってみます。
4人の兄弟姉妹が疎開で送られた、老教授宅にての描写。


He himself was a very old man with shaggy white hair which grew over most of his face as well as on his head, and they liked him almost at once;


黄色でマークしたところ、形容詞句の most of と副詞の almost は、高校生がよく間違えるところです。意味は「ほとんど」だからといって、修飾できるものが違うだけど、何気なく意味だけ知ってるから読めるけど、英作文になると混乱して使っていることが多いのです。

また、赤でマークした A as well as B 「Bと同様にAも」だとか、at once 「すぐに」といった必修熟語が出ているのも目に付きます。

文法的には、関係代名詞の which の先行詞が何で、関係詞節がどこまでなのか、といったあたりに留意しなければなりません。


セミコロンに続いて、直後の文。


but on the first evening when he came out to meet them at the front door he was so odd-looking that Lucy (who was the youngest)  was a little afraid of him, and Edmund (who was the next youngest) wanted to laugh and had to keep on pretending he was blowing his nose to hide it.


この一文をみて、すらすら読める高校生はどれぐらいいるんだろう?

すらすら読めるんだったら、大学受験に向けて、センター試験なんかはまず大丈夫な生徒だろうと、僕だったら感じるのです。

しかし、これまで指導してきた経験上、これぐらいになるともう完全に行き詰ってしまう生徒は多いし、なんとなくの想像力で読もうする子は出てきます。

実際、同業の指導者だったら、この一文の中に、3,4ヵ所は「しっかり説明しとかないと」と思う用法が含まれているのにすぐ気付きますから、授業のテキストで使うとしたら、時間をかけて説明したくなる文章だと思うはずです。

on the first evening 前置詞の使い方。in the evening との違い

so ~ that ・・・ 構文。「非常に~なので・・・」

the next youngest 最上級の応用。「二番目の~」。the second largest とかでよく習う

keep oning 動名詞の語法で頻出



C. S. Lewis のナルニア国ものがたりは、原文になった途端、小学生向けの愛すべき童話から、高校生向けの本格的英文に化ける怖さがあるのです。

2012年4月16日月曜日

基本文法の大切さ

たとえば、『ライオンと魔女』の書き出しから。


Once there were four children whose names were Peter, Susan, Edmund and Lucy.


関係代名詞の所有格が出てくる。けっこうみんなが苦手とする用法です。続いて、


This story is about something that happened to them when they were sent away from London during the war because of the air-raids.


2文目の関係代名詞 that は、先行詞が something なので、which よりも好まれる、といわれる用法なんだな、これが。

副詞節の動詞 were sent は受動態(受け身)になっている。こりゃいいか。

because of は前置詞句なので、後ろには名詞がきますが、高3生でも英作文なんかで、接続詞のbecause との使い分けができていないのを、よく見かけます。
最後の air-raids なんかは、必修単語ではないだろうが、文脈から意味が想像できる。はずだ!


みたいな感じで、文法の基本がわかっていないとすらすら読めるもんでもないな、と。
次のページに進めていってみると、そういったことを、さらに実感させられます。

またそれは次回に。

やはり文法は大事にしないといけないのですが、翻訳から入っていって、好きな物語を英語で読むのはワクワクしますから、その折に文法を学んでしまう、という裏技はあります

2012年4月12日木曜日

ナルニア国

なかなかこのブログの構築が進まない・・・

また、始めようと思っている授業の準備も思うようにいかない。

例えば、教材に使えないかと思って、C.S.Lewis の The Lion, the Witch and the Wardrobe をペーパーバックで読んでみた。邦訳は岩波少年文庫の『ライオンと魔女』、瀬田貞二訳。

いわずと知れたナルニア国ものがたりの一冊で、岩波少年文庫には小学4・5年以上、と対象年齢が書いてある。私にとっては、初めてのナルニア体験だったが、率直におもしろいし、大人になったせいか却ってグッとくるところもあった。岩波少年文庫なんかは、それこそ対象年齢の子たちにはお勧めだし、自分の子どもにもそのぐらいの年になったら勧めようと思う。

かといって、この童話を英語で読んでみようとすると、たいていの学生は挫折するであろう。大雑把に言って、高校英語レベルの文法が、ほぼ完璧でないと、読み進めるのは難しいと思う。

センター試験が楽に8,9割とれますよ、ぐらいでないと、正確には読めないだろう。童話だからといってナメテかかれない。英語でいろいろ読んでみたいと夢に描いている中高生で、岩波少年文庫体験のある子なら、早いうちに(つまり、中3、高1ぐらいまでに)チャレンジしてみることをお勧めしたい。

授業を読書会みたいにして、ペーパーバックの読み合わせをやっていくのは、ありといえばありだとも思ったのだが・・・。文法の難しいところは私が説明していけばよいから、ペーパーバック読破の初心者にとって、そのチャレンジの手助けには十分なれるだろう。

他の本も読んで、もうちょっと考えてみたい。

2012年4月2日月曜日

授業でやりたいこと

実際に授業形式で英語を教えるならば、おもしろい英文を読んでいくのが、いちばんよいと考えているのです。

そうなると、どのぐらいのレベルにするかで、ずいぶんと変わってきます。

たとえば、私が東大で習った授業の中で印象に残っているものに、柴田元幸先生の和訳授業がありました。毎回、プリントが配られて様々な英文を読んでいきましたが、たいへんおもしろかったので、一回も休むことがありませんでした。

しかし、あれは受けてる学生がみな東大生だったわけですから、中高生に求めるにはレベルが高すぎるものだったと思うのです。

ただ、あの東大の授業のおもしろさはやはりあったので、テキストさえ工夫すれば、中高生にも伝えることができるはずだと考えています。

もちろん、大学入試の過去問を解いていくことは、高校生には最も大切なことですが、それは個別指導でやっていますし、今後もしっかりやっていくつもりです。

ですから、私がおもしろいと思った英文を読み、わかりやすく文法解説をして、そのおもしろさを伝え、中高生たちと共有していく、そういった授業をやってみたいわけです。

結局、入門レベルと上級レベルに分けたほうがよいのかもしれません。